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Category:マーケティング

「ロールス・ロイス」争奪戦

最高峰の高級車の一つとして君臨する「ロールス・ロイス」。
世界中のVIP御用達の車であり、同車を所有することは一種の社会的ステータスでもあります。

現在、「ロールス・ロイス」はBMWが生産・販売を行っていますが、
この「ロールス・ロイス」ブランドの獲得を巡り、BMWがフォルクスワーゲンと熾烈な買収合戦を繰り広げたことをご存知でしょうか?

今回は1998年に両社が繰り広げた「ロールス・ロイス」争奪戦について紹介します。

航空機エンジン製造・自動車製造を主要事業としてきたロールス・ロイス社は、1973年に自動車製造部門を分離。ロールス・ロイス・モーターズとしてイギリス重工業メーカーであるヴィッカースに売却しました。

それから15年後の1998年、
ヴィッカースはロールス・ロイス・モーターズの売却を決定。
同年3月30日に提携関係にあったBMWによる買収に合意したとの発表がなされました。

しかし、その後事態を急変させることが起こります。
フォルクスワーゲンがBMWの買収価格を上回る値段をヴィッカースに提示。
6月5日のヴィッカース株主総会では一転、フォルクスワーゲンに売却することが決定されたのです。

敗者となったBMWですが、同社の弁護士、財務担当者がフォルクスワーゲンの買収提案を細かく分析した結果、ある重要な事実に気づきます。

「フォルクスワーゲンは『ロールス・ロイス』の商標使用権を獲得できていない。」

この事実に気づいたBMWは水面下で商標使用権獲得に向けた交渉を航空機エンジン製造業のロールス・ロイス本体に持ち掛けます。

実はロールス・ロイスの商標権を持っていたのはロールス・ロイス本体であり、ヴィッカースはライセンス契約によって商標使用を許可されていただけに過ぎなかったのです。

しかも、このライセンス契約の中には「支配企業の変更」という条項があり、ロールス・ロイス・モーターズがイギリス以外の企業に買収される時には、自動的に商標使用権がロールス・ロイスに返還されることが明記されており、ドイツ企業であるフォルクスワーゲンによる買収で、正にこの条項が発動したのです。

交渉の結果、ロールス・ロイスはフォルクスワーゲンへの商標使用権売却を拒否、
BMWは4000万ポンド(当時約96億円)を支払って商標使用権の獲得に成功しました。

注目すべきなのは、BMWが獲得したのはあくまで「ロールス・ロイス」の商標使用権だけであるという事です。

ヴィッカース所有の工場など生産設備等は既にフォルクスワーゲンに売却されていたため、BMWが獲得したのは「ロールス・ロイス」というブランドネームとロゴマークに過ぎません。

それにもかかわらず、BMWが「ロールス・ロイス」の商標使用権獲得に動いたのは、プレミアム・ブランド領域におけるブランドネームやロゴマークの重要性を理解していたからなのです。

生産設備はフォルクスワーゲン、商標使用権はBMWというねじれ状態の中、
両社は協議の末、2002年までという期限付きでBMWがフォルクスワーゲンによる「ロールス・ロイス」ブランドの使用を一時的に認めるという合意に達します。

期限が過ぎた2003年1月、
BMWは「ロールス・ロイス・モーター・カーズ」という新会社を立ち上げ、BMW製「ロールス・ロイス」を一から作り上げます。

そうして完成したBMW製「ロールス・ロイス」は、既に最高峰の高級ブランド車として世界に浸透していることもあり、2022年には過去最高の販売台数・売上高を記録するのです。

ブランド価値を作り上げるにはそのブランドが持つ特別なストーリーが重要です。

「ロールス・ロイス」所有者といえば、

デイビッド・ベッカム
クリスティアーノ・ロナウド
ビヨンセ
ジャスティン・ビーバー

などその時代におけるスターが名を連ねます。

また、エリザベス女王が50年以上にわたって公用車として使用するなど、
世界中の王侯貴族に愛用されています。

彼らはロールス・ロイス所属の職人と直接話し合いながら、オリジナルの車を作り上げたと言われています。

「ロールス・ロイス」の理念は“Inspiring Greatness”(偉大さを呼び起こす。)

ビスポークによって一台一台作られる「ロールス・ロイス」だからこそ、それを所有するオーナーの偉大さが喚起させられ、彼らに対する賞賛と畏敬の念を呼び起こされるのではないでしょうか?

BMWは約96億円を払い、「ロールス・ロイス」が持つブランドストーリーを獲得しました。
ブランド獲得のためにここまでの大金を投じることができる企業が、
果たして日本にいくつ存在するでしょうか?

髙橋 薫太