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Category:ドキュメンタリー

ドキュメンタリーにおける物語と視点

良い映画の条件って何?
こう聞かれたら皆さんどう答えますか?

「よい物語」
こう答える人が多いのではないでしょうか。
もちろん、俳優の演技や撮影技術、音楽などなど
他にも様々な条件がありますが、
まずは「物語が大事。」
そう考える人が多いと思います。

では、良いドキュメンタリーの条件って何?
こう聞かれたらどうですか?

「新事実の発見」「映像の美しさ」「主人公の内面の描き方」…etc.
なんだか答えるのが難しくなってきますよね…。

エミー賞受賞のメディア制作者シーラ・カーラン・バーナードは
著書でドキュメンタリーについてこう記しています。

「切り取られた事実の断片を、何倍もの意味を持つように整理し、
 あくまで事実を歪めずに見る人の心を揺さぶる物語を紡いでいく。
 それこそドキュメンタリーの本質なのです。」

“ドキュメンタリーで心を揺さぶる物語を紡ぐ”
そうです。ドキュメンタリーにも「物語」が大切なのです。

では、ドキュメンタリーにおいて物語を、どう描くのでしょうか。
ただ起きている現実を切り取っただけでは、物語にはなりません。
事件や事故、アクシデントなど突発的な出来事でも起きない限り、
日常的な現実に物語があるのでしょうか。

ドキュメンタリーで物語を描くために大切なこと
それは「視点」をもつことです。

どの視点から、どのように対象を見つめるか。
それによって物語が生まれてくるのです。

良いドキュメンタリーには、必ず良い視点が存在します。

2013年公開のドキュメンタリー映画をひとつご紹介します。
印南貴史監督の「ラーメンより大切なもの~東池袋大勝軒50年の秘密~」
東京・東池袋にあったラーメンの名店「大勝軒」の
創業者・山岸一雄さんを10年以上にわたり追い、
「ラーメンの神様」と呼ばれた山岸一雄さんの光と影を描いた物語です。

導入は「客の視点」「弟子の視点」から物語がスタートします。
なぜ彼のラーメンはおいしいのか、なぜこんなに愛されるのか、
人気ラーメン店の秘密、弟子との人間関係など、
客観的な視点から探るように描かれていきます。

そこから視点は徐々に主観的になっていきます。
ラーメンのおいしさではなく、
山岸さん自身にフォーカスし、
カメラの距離が近づくにつれ、心の距離も近づいていき、
山岸さんの人となりが見えていきます。

印南監督は“大勝軒の中の一部に自分がなること”
を意識したといいます。

そんな寄り添うような視点から描かれる中で、
山岸さんがもっている“ある闇”に気づいた時、
山岸さんの物語に引き込まれていくのです。

そして最後は、亡くなった奥様との物語。
決して多くを語らず、見せることを断固拒否していた奥様の部屋。
最後にその扉を開け、遺品をカメラが映し出すシーンは、
「山岸さん自身の視点」で描かれます。
その瞬間、見るものは山岸さんと一体となり
感情の渦に吞み込まれるのです。

素晴らしいドキュメンタリー作品には、
素晴らしい物語があり、
その物語を描く素晴らしい視点が存在するのです。

もちろん、客観的な視点から淡々と描くことで
素晴らしい物語を描いたドキュメンタリー作品も数多くあります。
それはまた次回、ご紹介しましょう。

ドキュメンタリー映像ディレクター 
武田晋助